チャンスは自分で掴み取る
熱意が協力会社を動かした
前任者から引き継いだお客様の担当者が異動となり、後任の方が私と同世代でした。一緒に話しをすることが楽しく、自然と足を運ぶ回数も増えました。ある時、「パドルシフト」の新しいモデルを立ち上げたいので、作ってみないかと声をかけられたのです。建設ゴムとして、これまでほとんど取扱ったことのなかった塗装部品。不安はありましたが、これは大きなチャンスだと思って上司に相談し、やらせてもらうことになりました。上長や先輩に指示を仰ぎながら、仕入先の選定から部品のコスト算出、お客様との金型仕様の打ち合わせに至るまで、このプロジェクトのメインの担当者を任されました。しかし、当社でほとんど実績の無い塗装部品であることに加え、当時私はまだ入社3年目(担当してから2年目)ですから、ほとんど何もわかっていない状態です。その時に持っていたのは熱意とフットワークの良さのみでした。成型メーカーから塗装会社まで、これまでお付き合いのある会社すべてを回り、「とにかく作りたい!」とその思いだけで頭を下げました。結果、協力してくれる会社が1カ月で決まり、滑り出しは上々。ますますやる気になっていったのです。
想定外の壁に何度も遭遇
完成時の達成感も想像以上に
プロジェクトは、金型仕様の打ち合わせから始まりました。これもスムーズにいってよかったと思った矢先、実際の製造段階になった時、形状が思った通りではなく、寸法のずれが出てしまったのです。これまでの部品であれば許容範囲のずれでしたが、この部品に限っては、お客様からさらなる精密さが求められたため、メーカーの担当者の方に夜中までかかって何度も作り直してもらいました。私ができることは担当の方の横に付き添って、手元をライトで照らすことだけでした。結局、金型の完成までに8カ月もの時間を要してしまいました。ようやく金型が完成したと思ったら、次なる問題にぶつかりました。塗装で指定の色がなかなか出ないのです。塗装に関してはこれまで経験のない工程だったため、どこをポイントに考えていけばいいのかわからず、手探りの状態でした。同じ黒でも微妙な違いになかなかOKの返事がもらえず、その度に塗装メーカーに出向き、数えきれないほど試作を繰り返しました。やっとの思いでお客様からゴーサインが出た時は、これで大きな山を越えたと、心底ほっとしました。
塗装のスペシャリストを自負
さらなる新商品に挑んでいく
試作品の完成から1年後には量産体制に入り、毎月600個を納品。その後、形状違いのパドルも受注。月10万個という大量生産を行うことになり、人気車に次々と採用されました。お客様からは、建設ゴムでも塗装部品が作れるという、新たな評価をいただくことができ、社内でもかなり高く評価してもらいました。何より、自分が立ち上げた部品が搭載された車が発売となり、ディーラーでその部品を見た時の感激は想像以上でした。
いわゆる意匠部品の塗装は高い技術力が必要となるため、なかなか取り組む企業がないのが現実です。そこに踏み込めたことは、おそらく担当して2年目で怖いもの知らずだったからです。今では塗装に関しての知識は社内一だと自負しています。今後この知識と経験を活かして、次なる新規部品の受注にも挑戦したいと思っています。さらに、このプロジェクトを通して、私自身のポリシーとも言える「現地現物」の考え方を後輩にも教え、現場を経験することの大切さを伝えていきたいと思っています。